虚
「起きなさい……起きるのです、アカズキン……
今日はあなたの12歳の誕生日……
初めて森のおばあちゃんに会いに行く日……」
「え!? そうなの!?
お母さん、ずいぶん唐突ね!
というか、私におばあちゃんなんていたの!?」
アカズキンは飛び起きました。
アカズキンの誕生日だというのに、お母さんはどこか悲しそうに見えました。
「アカズキン、よくお聞き……
これからあなたは誕生日を迎えるたびに、
森のおばあちゃんに果物を届けに行くのです。
そしてやがて……ああ!」
「お母さん……なんか勝手に盛り上がってるみたいだけど、私、行くね!
だって、すっごく唐突で、すっごく楽しそうじゃない!」
アカズキンは朝ごはんも食べないで身支度を整えると、深い深い森へとスキップしながら入っていったのでした。
その背中を見て、母親は呟いたのでした。
「なんとまあ、人の話を最後まで聞かない子……思い込みの激しい子……
いや、だからこそ……
私たち森の魔女の理を、超えることができるかもしれないわね……」
実
おばあちゃん、私のおばあちゃん!
いったいどんな人なんだろう?
森の奥深くに、一人で住んでるですって?
なんで?
普通に考えておかしいでしょ?
だって、おばあちゃんだよ?
どうして私のお父さんとお母さんと一緒に住まないわけ?
森に一人で、毎日のごはんはどうしてるわけ?
この果物が、どれほどお腹の足しになるわけ?
うふふ……私、わかってきちゃったかも。
全ての情報をまとめてみると……
おばあちゃんは、人間じゃありません!
きっと、森で一人で生きて行ける強くて賢い獣!
そうね……おばあちゃんはきっと、狼なんだわ!
真
俺は……森の魔女様に留守番を頼まれてただけの、狼なんだ。
魔女様はちょっと唐突だけど、優しくて……
ちびで、狩りの足手まといで、群れから追い出された俺を拾って、育ててくれたんだ。
魔女様は「話し相手が欲しいから」と、俺に人間の言葉を教えてくれた。
あれは魔法だったのか、ただの訓練だったのか……
最初はうまく話せなかったけど、だんだん話せるようになって……
俺が初めて喋った言葉は「もっと、大きく、なりたい」だった。
魔女様は「じゃあ、魔法で成長の限界を外してあげる」って、やっぱり唐突に……
それで俺は、人の言葉を話すばかでかい狼になった。
数日前、魔女様は
「過去を数千年、遡りたい気分になったの。
『この世界がどこまで遡れるのか』、少し気になってね。
狼さん、お留守番よろしくね。
さみしいかもしれないけど、すぐに私の孫が来ると思うから大丈夫。
孫には、私のふりをして頑張ってね」
と、宙に生みだした扉に消えていった。
こんなばかでかい狼の俺に、魔女様のふりをしろって!?
さすがに……唐突な頼みにもほどがあるだろ、魔女様!
そして、ついにその日はやってきてしまった。
赤い頭巾をかぶった少女は俺を見て、目を輝かせて言ったんだ。
「おばあちゃん! やっぱり狼だったのね! 私ったら名探偵! さあ、私とおばあちゃんの最強伝説を作りましょ!」
俺は確信した。間違いない、こいつは魔女様の血を引く孫だって。
深
「ねえおばあちゃん。おばあちゃんのお耳って、どうしてこんなに大きいの?」
「成長の限界を外されたからな」
「ねえおばあちゃん。おばあちゃんのお目々って、どうしてこんなに大きいの?」
「成長の限界を外されたからな」
「ねえおばあちゃん。おばあちゃんのお口って、どうしてこんなに大きいの?」
「成長の限界を外されたからな」
「うふふ! 答えは簡単! おばあちゃんは、狼だからよね!」
「お前、本当に人の話を聞かないなぁ……」
罪
「もう、おばあちゃん……人狼たちに逃げられちゃったじゃないの!
パワーはあるけど、何よりも速さが足りないわ、おばあちゃん!」
少女が狼の頭頂部をぐりぐりと押すと、狼はため息をついた。
「お前なあ……人様に迷惑かけるのもほどほどにした方が……」
「でも、もっといい情報が手に入ったわ!
あの人狼たちよりも、もっと面白そうな相手……
人、狼、さらに赤い頭巾の人狼がいるっていうじゃない!
しかも、最強だの支配者だのと名乗ってるんですって!
わたしたちのパクリよ、おばあちゃん!
これはこれは……やるしかないんじゃないの、おばあちゃん!?」
うーんと狼は考え込む。
「……まあ、人間に迷惑かけてるらしいからなぁ。魔女様がいたら、きっと見逃しはしないだろうし……」
「魔女? 魔女って誰なの、おばあちゃん!?」
「お前のおばあちゃんだよ、アカズキン」
「おばあちゃん? おばあちゃんって、魔女だったの? すごい! 狼でしかも魔女なんて、おばあちゃんって無敵なのね!」
「本当に、人の話を聞かねえよなあ……」
まあ確かに……寂しくはねえや、魔女様。
一人と一匹……人狼一体の『最強』は、
吸血人狼の拠点を目指して、魔女の森を出発した。
余談
童話「赤ずきん」の赤ずきん。
lov3から登場。
人獣種の大型使い魔。
lov3では別の形で「おばあちゃん」との出会いが語られており、アカズキン自身もおばあちゃんが狼とは知らない「ふり」をして暴走している。
4にも登場しており、4ではエクストラコスチュームレアにおいて教室で水着というぶっ飛び方もしている。
サヴァスロでは、おばあちゃん=狼という確信(名推理)のもと、また違った暴走をしている。
トレイシーのおばあちゃん、ウィッチの言うおばあちゃん、狼のいう魔女様それぞれが「偉大なる魔女」と語られているが、この世界での「偉大なる魔女」は複数いるようだ。
個人を特定するものではなく称号名・階級名なのかもしれない。