虚
元歌姫と歌の出会い?
はあ、そんなことが書きたいのかい。
いいよ、売り物にならない話ならしてあげるよ。
歌っていうのはね、もともと、独り言なんだよ。
畑仕事なんてね、話し相手は土と作物しかないもんさ。
それでブツブツ呟いてるとね、そのうち変な節がついてくる。
気づいたら、歌になってるってもんさ。
そう……あたしが若かった頃、畑でそんな風に歌ってるとさ、降りてきたんだよ。
キラキラに目を輝かせたあの子たち。ハーピーの三姉妹がね。
実
怖くなかったのって?
そりゃ、怖いよ。
子供とはいえ、でっかい鳥に人の顔と体がついてるんだもの。
あのかぎ爪にやられたら、あたしなんてすぐに挽き肉だろうね。
でもまあ、それでもいいかって。
毎年、暑くて寒くて体は痛い、辛いだけだったからさ。
それに、作物を食い荒らす風でもないし。
あの子たちの目が言ってたわけ。続けて、歌ってって。
犬とか猫とかだって遊んで欲しいときにはわかるだろ。あんな感じ。
だから、たっぷり日々の愚痴を歌にして、聞いてもらったわけ。
するとあの子らさ、上手に節を合わせて、歌い返してくれたわけ。
言葉ではなかったね。風が鳴いてるような、いい歌だったよ。
あのときわかったね。
歌に人も魔物もないんだなって。
真
あの子らはそれから、ちょくちょく遊びに来たよ。
ほら、赤ん坊って「真似っこ」が好きだろう?
あんな感じで、その雛ハーピーたちもあたしの言葉を真似てね。
なんと、簡単な会話ならできるようになったのさ。
ある時ね、あの子たちが急に湖に行こうって言い出して……
あたしも暇だったから、ついてったのさ。
するとびっくり。綺麗な人魚さんたちが待ってたわけ。
それで、あたしの歌を聴かせてほしいって言うんだよ。
え? これじゃあ伝記じゃなくて小説?
そうだろうねえ、そうであってくれたらよかったんだけどねえ。
深
人の口に戸は立てられない。
放っておいてくれればいいのにね、来たのよ。たくさん。
ハーピーじゃないよ。武器を持った人間が来たんだよ。
こいつは魔物に取り憑かれた女だ、ハーピーと話しているところを見た、人魚と話しているところを見た……
尾ひれがついてね、馬人と話してたとか、二足の獅子と話してたとか、もう散々。
とにかく、魔物に人間を売ろうとしている魔女だって言われて、殺されるところだったよ。
事情を知ってた神父様がかばってくれて、辛うじて助かったけど。
でももう、あの子たちは来なくなったね。
きっとどこかから見てたんだろうね。
気をつかってくれたんだよ。
あの子たちの方がずっと弁えてる、そう思ったね。
罪
それから、10ほど年経って……
街でね、歌の大会が初めて開かれることになって。
酔狂なことをするもんだね、貴族様ってのは。
あたしは出る気なんてなかったよ。
荷売りのついでに、宮廷の詩人様が歌う英雄譚とやらを聞きにいくつもりだったのさ。
で、行ってみたらみんな下手くそに思えてね。腹立って、つい名乗りをあげちゃってさ。
でもね、自分の番になってわかった。
村の中で、土や気心知れた身内の前で歌うのとは、全然違う。
歌どころか挨拶も出てこなくなって、笑い者になる寸前にさ……
教会の塔の上……あたしからしか見えないそこにね、いたんだよ。
立派に成長したあの子たちが、あたしを見ていた。
そして、大きく翼を動かして、あたしを励ました。
「頑張れ」「歌って」「聞かせて」って。
あの子たちは何も言ってないよ。でも、確かに聞こえたんだ。
あの子たちに無様な歌は聞かせられないからね。
力一杯、あの子らがいなかった10年間の「独り言」を歌ってやったよ。
あの子たちはあたしの歌を聞くと、満足そうに飛んでいった。
そんなところさ。元歌姫と、歌の出会いの物語なんてね。
あの子たちは今でもきっと、孤独と戦う誰かのそばにいるよ。
私にはわかるんだよ。
余談
ヨーロッパに伝わる、半人半鳥の怪物。
lovでは1から登場した。
フレーバーテキストの大人びた雰囲気と、プレイ時のボイスの子供っぽいキャラクターづけに少しのズレがあった。
lov3からは個人名「アエロ」「オキュペテ」「ケラウノー」三姉妹として、それぞれ個別に参戦。
アエロは主人公・バルドの相棒使い魔であり、立ち絵も作られる。
さらにlov4でも主人公・一心の相棒使い魔として登場。
4に沿ったアニメ『ロードオブヴァーミリオン』でもメインキャラクターの一人として活躍した。
4で実装された「創魔カード」では、ハーピー3姉妹を1枚のカードで同時に使える。lovとしては10年目にして初の試みであった。
サヴァスロでは、無名のハーピー種として参戦。
無名のハーピーたちということを味にしたフレーバーテキストとなっている。