虚
青き死獣は、冥府から出たことがない。
それは、地下だろうが地上だろうが、死獣の踏みしめた場所こそが冥府の一部となるからだ。
その咆哮は畏怖、その呼吸は瘴気。
存在自体が猛毒の死獣が進む先、生命は骸へと、繁茂は荒野へと変わる。
死獣の体に蓄えられた、冥府創生の雷が生者へと降り注ぐ。
冥府の嵐は、今日も止むことはない。
実
「たわいもない……」
死獣は呟いた。
圧倒的な雷撃に、ほとんどの敵は出会い頭の一撃で沈む。
「俺は死。
俺に抗う者はおらぬか!
俺に死を垣間見させる者はおらぬか!
俺は、俺が振りまく死の姿を知りたいのだ!
さあ、俺を止めてみせよ!
止められぬなら砦を落とし、そのアルカナを冥府の礎にするだけのことよ!」
真
死獣の耳と鼻が、背後に現れた敵の気配を捉えた。
出現と同時に、スケルトンたちは雷を浴びせられ、灰も残らず消滅する。
「どうした……これで終わりか……なに!?」
振り返った死獣に浴びせられる、矢と炎の嵐。
炎は死獣にまとわりつき、「死」を彫り込む爪で払っても、消えようとしない。
「死獣プルートー、迂闊だったわね」
「……叡智の神、ミネルバか!」
死獣の正面には、肩にフクロウを乗せた女神が立つ。
さらに、雷撃の対象を絞らせないよう、死獣を中心に扇状に散会する戦士たち。
「ククク……叡智と聞けば、このような小細工が精一杯か。
だがそうだ、それでよい!
俺は雷を撃つに加減はできん!
皆を溶かすに時間はかかるが……そのぶん、冥府への畏怖も高まろう!」
死獣の体は、地鳴りと共に地から天を突く雷を宿しはじめた。
深
無限の死と生を許す無尽蔵のアルカナ……なるほど、悪くない。
ミネルバ、今ひとときだけ貴様の言葉に耳を貸そう。
俺とて俺の死を味わえるなら、それは無上なる喜び。
そうだな、貴様のいう「知る」ということへの興味を認めようではないか。
だが、貴様の言葉にだけ説得されたのではないぞ。
ここには、双顔を持つ「入口の神」もいる様子。
俺は死という「出口の神」……
入り口は何かの出口であり、出口は何かの入り口でもある。
やつが興味を示したのなら、俺もまた付き合う気になったということだ。
フン、そこまで目論み通りか?
フ、焼くだけが能ではない、そういうことにしておいてやろう!
罪
……ロードよ、お前か。
フン……少し、考え事をしていた。
お前の元で幾度となく生と死を味わい、食らい……意外なことを知った。
俺が浴びせる、突然の死。
雷撃に飲まれる瞬間、敵の中には喜びの表情を浮かべる者すらいるとはな。
やつらが見せるのは、死の安堵、死の救済……
どうやら、この世において死は必ずしも悲しみに彩られてはいないらしい。
俺は、そんな救いの獣にされることが不本意だ。
死が救いなどという歪なる世界を、お前の力で正せ。
全ての生きとし生ける者に、この死獣を、死を恐れさせよ!
余談
ローマ神話の冥府の神。ギリシャ神話のハデスと同一視される。
他にローマ神話の神としてサヴァスロにいるのは、ミネルバ、クピド、ヴィーナス、カークス。
lovでは2から参戦。
3では2と同じく最大コストの使い魔のまま参戦し、主人公・イージアの相棒使い魔としてストーリーモードにも登場した。
強大な使い魔であることから、使い魔とはいえ主であるイージアを挑発する・試すような発言が多かった。
lovシリーズ内で屈指のイラスト点数を持つ使い魔でもある。
lov3では最高レアリティであるURであるにもかかわらず、ほぼ毎バージョンにおいてイラストが更新され再録され続けた。
さらに、サヴァスロでも描き下ろしイラストである。
lov4でもイージアと宿縁がある主人公・黒髪マリエの相棒使い魔として参戦している。