サーヴァントオブスローンズ(サヴァスロ)攻略Wiki(非公式) - ヘル FT

ヘル

冥府の女王は、赤銅のメイドの上で日傘をくるくると回す。
「ねえガングレト、とっても素敵なお散歩日和じゃない?」
「サヨウデゴザイマス、オ嬢サマ」
ガングレトと呼ばれたメイド――自律する四足の拷問器具である彼女は、主を乗せて陽光の照る平原を行く。
ガングレトが一歩踏み出すたび、ギイギイと耳障りな音が平原にこだまする。
冥府の女王は、尻に敷いているガングレトに声をかける。
「ねえ。こんなに気持ちのいい日は、思い切り走り回りたくならない?」
「……」
「こんな気持ちのいい日は、思い切り走り回りたくならない?」
「……」
「こんな気持ちのいい日は、思い切り走り回りたくなるわよね?」
「……サヨウデゴザイマス、オ嬢サマ」
「やっぱりそうよね。
あらガングレト、あそこでロードがやりあってるわ。
あのアルカナが溢れる砦までひとっ走り、駆けて行ってもいいわよ」
「カシコマリマシタ、オ嬢サマ」

駆け出したメイドの上。
冥府の女王はティーカップを傾けて、器用にもこぼすことなく紅茶に口をつけている。
「ねえガングレト」
「イカガナサイマシタ、オ嬢サマ」
「あなた少し、手を抜いてない?」
「メッソウモアリマセン、オ嬢サマ」
「……全速の7割で誤魔化せると思ったなんて、にくたらしい子ね。
それとも、紅茶をこぼさないように配慮してくれたのかしら。
心配はご無用よ。あなたが全速でかけても紅茶をこぼすことなんてないわ。
あら? どうして止まったの?」
「川ガアリマス、オ嬢サマ」
「綺麗な川ね。跳びたくならない?」
「……」
「綺麗な川ね。跳びたくならない?」
「……」
「跳びたくなるわよね?」
「……サヨウデゴザイマス、オ嬢サマ」
「さすが元気いっぱいのガングレトね。それでこそ私のメイドだわ。そして私は……あなたが跳んでも、紅茶をこぼさないわ」
「サスガデゴザイマス、オ嬢サマ」

ガングレトは勢いをつけて、川を跳んだ。
ヘルはその言葉どおり、川の上でストレートティーを優雅に飲み干す。
その余りにも異様な……ふざけた光景に、砦の守勢は呆気にとられた。
だが、川を跳んだ影はもう一つあった。
その影は馬上から剣で戦場を一撫ですると、たったそれだけのことで砦の守勢を片付けてしまった。
「ヘル、お前の行動はまったくもって理解ができん。紛れもなくやつの娘だな」
「あら、オーディン伯父様。そこまで私を理解してくださるなんて、感激の至りですわ」
少女らしからぬ嫌味な笑顔を浮かべるヘルに、戦神オーディンは心なしか呆れ顔である。
「話を聞かせてもらうぞ。だが、まずはこの戦を片付けてからだ」
「うふふ、伯父様ったら律儀なこと。お父様とウマが合わないわけだわ」
「サヨウデゴザイマス、オ嬢サマ」
戦神の神馬がいななき、冥府の女王のメイドが吼える。
これ以上ないというほどのぴったりの息で、城塞は瞬く間に陥落した。

自らが破壊した砦の残骸……オーディンが腰かけると、瓦礫すら玉座のように映える。
ヘルはその向かいで、やはり優雅に紅茶をすすっていた。今度はストレートではなく、ミルクを入れて。
「結局合流することになったな、ヘルよ。だが我には、腑に落ちない点が多々ある」
「あら、伯父様らしい。この世もあの世も腑に落ちることの方が少ないでしょうに」
ヘルの軽口をオーディンは聞き流し、単刀直入に本題に入る。
「……お前は見たか? 終末竜を」
「たぶん。あの白い竜のことでしょう? 伯父様が造られたのではなくて?」
オーディンは無言だ。それだけでヘルには十分な返事だった。
「うふふ……だとしたら変ですわね。
『神々の黄昏』も始まっていないのに、さらにその特異点たる終末の聖竜が具現しているなんて。
私てっきり、魔術の得意な伯父様が手を尽くして造り出したのかと思いましたわ」
「そう……あれは、我しか造ることは叶わん。だが我は、あれを造った記憶がない。
そして……あれはどうやら、我がこの世界に召喚される以前から存在していたようなのだ」
「うふふ……それじゃあまるでこの世界が、人形劇ですわ」
「人形劇だと……?」
「ええ。すでに終わった人形劇の人形を、順番も無視して全部並べて新たに始めた人形劇みたい」
「……」
「どうでもよくありませんこと、伯父様。
ほら、あんなに楽しそうに駆けっこするガングレトとスレイプニルを見ていると、
この世界がなんだろうと生きててよかった――と思いません?
私の心臓が動いたり止まったり適当だからそう思うのかしら。うふふ」

「――キョウコソ、アナタニ勝チマス。スレイプニル様」
赤銅の拷問器具は、戦神の愛馬に挑戦の意思を示す。
その言葉は、普段ヘルを相手にしている時の10倍は熱意がこもっていた。
スレイプニルも八足で地面を一蹴りしては、挑発的に高くいななく。
まるで「そのような体で勝てるものか」と煽り立てるように。
「ワタシガ勝ッタラ、ワタシガオーディンサマノ愛馬トナリマス」
「……!?」
「ソシテ、アナタニハオ嬢サマノメイドニナッテイタダキマス」
「……!!」
ガングレト――本気だ――
スレイプニルはふわりと僅かに体を浮かせる。
地を蹴るのではなく風を蹴る、本気の走法の構えだ。
遠目で見ていたヘルが、二人に声をかけた。
「うふふ。何やら二人とも燃えてるようね。本当に仲良しですこと。さあ位置について。用意、ドン」
神馬と拷問器具の、絶対に負けられない闘いが始まった――


余談
北欧神話の冥府の女王。
ロキの娘であり、オーディンの姪にあたる。

lov1から参戦。
騎乗している拷問器具(アイアンメイデン)は、ヘルに使えるメイド「ガングレト」。
父が北欧神話最大のトリックスター・lov3でのラスボスだったロキということもあり、娘である彼女も非常識。
ガングレトはなかなか苦労もしているようで、サヴァスロにおいてはオーディンの愛馬と役割を交換しないかとすら持ちかけている。

lov4やその準拠アニメでは主人公らを導くドゥクス役として抜擢され、やや落ち着いた感じになっている。