村はずれの湖のほとりに、人魚の姉妹たちが現れる。
人魚は恐ろしい存在、近寄ってはならぬ。
美しい容姿と歌声で人間を惑わし、水中に引きずり込んで殺してしまうから――
いいことを教えてもらった。
今、生きることに絶望した一人の少年が、湖のほとりを訪れた。
お喋り好きな三人の人魚たちはすぐに岸に体を寄せて、人の言葉で尋ねた。
「坊や、泣きべそをかいて、どうしたの?」
少年は鼻をすすり、言った。
「死にたいんだ」
三人の人魚は、顔を見合わせて驚いた。
そして、声をそろえて言った。
「「まあ、なんて素敵な声!!」」
人魚は恐ろしい存在、近寄ってはならぬ。
美しい容姿と歌声で人間を惑わし、水中に引きずり込んで殺してしまうから――
いいことを教えてもらった。
今、生きることに絶望した一人の少年が、湖のほとりを訪れた。
お喋り好きな三人の人魚たちはすぐに岸に体を寄せて、人の言葉で尋ねた。
「坊や、泣きべそをかいて、どうしたの?」
少年は鼻をすすり、言った。
「死にたいんだ」
三人の人魚は、顔を見合わせて驚いた。
そして、声をそろえて言った。
「「まあ、なんて素敵な声!!」」
ぼくの声が……素敵な声だって……?
今度は少年が驚く番だった。
少年は、そのガラガラ声のためにからかわれ続け、生きることを辛く感じていたのだから。
それが、美しい声の人魚さんたちに褒められた……?
「それで坊や、どうして死にたいなんて思ったの?」
少年は喉を押えながら、しどろもどろに答える。
「そ、それは……村で、一人ずつ歌を歌う大会があるんだ……
僕が歌うと、みんな大笑いしたり、耳をふさいだりして……
一年中からかわれるんだ。毎年のことなんだ。
こんな村で生きてても、ずっと辛い。もういっそ、死んだ方が……」
人魚たちは、また顔を見合わせた。
そして、けらけらと笑い出した。
今度は少年が驚く番だった。
少年は、そのガラガラ声のためにからかわれ続け、生きることを辛く感じていたのだから。
それが、美しい声の人魚さんたちに褒められた……?
「それで坊や、どうして死にたいなんて思ったの?」
少年は喉を押えながら、しどろもどろに答える。
「そ、それは……村で、一人ずつ歌を歌う大会があるんだ……
僕が歌うと、みんな大笑いしたり、耳をふさいだりして……
一年中からかわれるんだ。毎年のことなんだ。
こんな村で生きてても、ずっと辛い。もういっそ、死んだ方が……」
人魚たちは、また顔を見合わせた。
そして、けらけらと笑い出した。
「人間って、声はよくても歌は全然大したことないのよね」
「そうそう、人間が持つせっかくの声に、人間の作る歌が追い付いてない」
「坊やの声にあった歌を、私たちと作りましょ。さあ、お腹から声を出してみて」
少年は驚いた。
人魚の一人が少年の腹に手を当てると、少年はやぶれかぶれの大声を出した。
すると、湖の上を大きな影が横切り、三羽の鳥人が目を丸くして木の枝に降り立った。
「あら、ハーピー三姉妹じゃない。あなたたちもこの子の歌作りに協力してくれる?」
人魚の呼びかけにハーピーたちはキイキイとひと鳴きしてから、流暢な人の言葉で応じた。
「もちろんよ、マーメイドたち。こんな逸材、私たちが放っておくわけないわ」
「そうそう、人間が持つせっかくの声に、人間の作る歌が追い付いてない」
「坊やの声にあった歌を、私たちと作りましょ。さあ、お腹から声を出してみて」
少年は驚いた。
人魚の一人が少年の腹に手を当てると、少年はやぶれかぶれの大声を出した。
すると、湖の上を大きな影が横切り、三羽の鳥人が目を丸くして木の枝に降り立った。
「あら、ハーピー三姉妹じゃない。あなたたちもこの子の歌作りに協力してくれる?」
人魚の呼びかけにハーピーたちはキイキイとひと鳴きしてから、流暢な人の言葉で応じた。
「もちろんよ、マーメイドたち。こんな逸材、私たちが放っておくわけないわ」
マーメイドが教えてくれた、湖畔のさざ波の音。泡がはじける音。
ハーピーが教えてくれた、空を切る風の音。羽がぷつりと抜ける音。
少年は、この世界がいかに多くの音に溢れているかを知った。
それを捻じ曲げようとせず、その音に寄り添うような声――
木の上では、かしましいハーピーの一団が、静かに目を閉じて聞き入っていた。
湖畔の中心で、護衛に守られたマーメイドの女王が、厳かながらも微笑んでいた。
やがて、どこからか歌に伴奏が混ざる。
海の潮流を操る悪魔が、弦を張った楽器を弾いていた。
歌が終わると、少年に向けて様々な種族から祝福の喝采が飛んだ。
人魚たちはしぶきを上げて跳ね回り、ハーピーは空を飛び交って大騒ぎ。
「生きてて、よかった」
少年は、目に涙を浮かべてそう言った。
それはちがうでしょ、と人魚の一人が優しく涙をぬぐい、頬に口づけをする。
「私たちこそ思ったわ。生きててよかったって」
ハーピーが教えてくれた、空を切る風の音。羽がぷつりと抜ける音。
少年は、この世界がいかに多くの音に溢れているかを知った。
それを捻じ曲げようとせず、その音に寄り添うような声――
木の上では、かしましいハーピーの一団が、静かに目を閉じて聞き入っていた。
湖畔の中心で、護衛に守られたマーメイドの女王が、厳かながらも微笑んでいた。
やがて、どこからか歌に伴奏が混ざる。
海の潮流を操る悪魔が、弦を張った楽器を弾いていた。
歌が終わると、少年に向けて様々な種族から祝福の喝采が飛んだ。
人魚たちはしぶきを上げて跳ね回り、ハーピーは空を飛び交って大騒ぎ。
「生きてて、よかった」
少年は、目に涙を浮かべてそう言った。
それはちがうでしょ、と人魚の一人が優しく涙をぬぐい、頬に口づけをする。
「私たちこそ思ったわ。生きててよかったって」
人魚の寿命は長い。
その鱗ひとつに不老不死の力が宿るといわれるほどの生命力を持つ。
少年が青年となり、老人となり、ついに墓に入るまで、歌を愛した彼の歌は人間から評価されることはなかった。
だが、多くの歌を愛する種族たちは、種族間の対立も忘れ、皆一様に彼の歌を愛した。
人魚三姉妹は、出会ったロードと運命と共にすることで、陸に上がることを決意した。
それは、歌が響き歌が学ばれるような世の中を作るため。
彼女たちは「彼の歌」を歌い継ぐ。
いつか人間が、彼を理解する日が来ることを信じて。
その鱗ひとつに不老不死の力が宿るといわれるほどの生命力を持つ。
少年が青年となり、老人となり、ついに墓に入るまで、歌を愛した彼の歌は人間から評価されることはなかった。
だが、多くの歌を愛する種族たちは、種族間の対立も忘れ、皆一様に彼の歌を愛した。
人魚三姉妹は、出会ったロードと運命と共にすることで、陸に上がることを決意した。
それは、歌が響き歌が学ばれるような世の中を作るため。
彼女たちは「彼の歌」を歌い継ぐ。
いつか人間が、彼を理解する日が来ることを信じて。
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